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2008年03月12日

あの角を曲がれば・冬

桜の花が咲く頃に君は遠くへ行ってしまうんだね。遥か遠いところへ 。。。



僕が初めて君を見たのは、そう夏祭りの夕暮れ時…

君は2匹の金魚が入ったビニール袋を片手に、しきりに何かを探しているように遠くを見ながら急ぎ足で歩いていたね。

僕がもう少し早く歩いていたら、危うくあの角で僕と君はぶつかるところだったんだよ。知ってるかい?



なんて寂しい瞳をしている娘なんだ…何を探しているんだ…誰を探しているんだ……

その時、君は何かにつまづき転びそうになった。思わず近くに立っていた僕の腕を掴んだね。

金魚の入った袋が落ち、袋から飛び出した金魚たちはコンクリートの上で苦しそうに跳ねていた。


2人で慌てて拾い上げ、近くの公園まで何も言わずに走った。

公園の水道から冷たい水がほとばしるような勢いで出て来た。

すぐにビニール袋は水でいっぱいになった。

2匹の金魚たちも何とか大丈夫だったけれど、君の浴衣もびしょ濡れになったよね。


『大丈夫?』

『はい。大丈夫です。すみません。おかげで金魚たちも助かりました!ありがとう御座います!』

笑った顔はなんて愛くるしいんだろう…なのに何故あの時、あんな寂しい瞳に見えたんだろう…。





あれから数ヶ月、君と会うことはなかった…。



君はどうしているのだろうか…




それから数日後の雪の降る夜、僕は久し振りに街へ出た。

クリスマスイルミネーションが飾られた土曜日の街はカップルでいっぱいだった。

ふらふら歩いていると、街頭にディスプレイしてあった薄紫色のクリスマスローズの美しさに目を奪われた。

誰かにプレゼントするなんて当てもなかったが、たまには男の部屋に花でも飾っても悪くはないなと一鉢購入することにした。

帰りにあの角を通過した…。

君と初めて出会ったあの場所だ…。



凍えるほどの寒さと雪で早く家に帰りたかった。



信号待ちをしていた時、何気に空を見上げた。

雪が降っているというのに雲間からは星が見えた。

いつもより増して輝いているようにも見えた。



『綺麗ですね、星』



なんと声の主は君だった。



『そうですね、こんな雪なのに星が見えるなんてラッキーですよね』

『私…………桜の花が咲く頃…あの山の向こうへ越すんです…………。結婚するんです私……。』

『そうなんですか……おめでとう御座います。あっもし良かったら、この花差し上げます!ご結婚のお祝いとはいきませんけど。』


『え!?頂いても構わないんですか?ありがとう御座います!』




君は、あの夏の時ようにとても愛らしい笑顔で、はにかみながらクリスマスローズを受け取ってくれた。


例え君が遠くへ行ってしまっても寂しくないよ。






あの角を曲がれば、いつでも君に会えるから………。



寂しい瞳をした君





可愛い笑顔の君に